ベネッセコーポレーション

 2014年7月個人情報の流出でマスコミが騒ぎ立てた。ベネッセコーポレーションの持つ個人情報二千万件が、あるシステムエンジニアによって持ち出され、業者に転売され実際に使われた。世間では「流出」「個人情報の保護」について様々に語られてきたが、一つの企業が日本人の1/6の個人情報を握っていることそのものの恐ろしさを指摘した話をあまり聞かない。法律を犯してはいないから。しかし。
 全人口の1/6だが、若年層だけ見たらどうだろう。20才までの日本人については、一年あたり百十万人前後だから、20才までの人口の総計はおよそ二千二百万人ほどだ。流出した個人情報は主としてベネッセの商売の対象となる若年層のものであろうから、少なく見積もってもベネッセは日本人の若年層大半の、氏名・年令・住所を把握している。
 更に高校教員から見ると。2014年度、全国約5400校の高校のうち4665校がベネッセにセンター試験自己採点データを提供。2013年度9月のベネッセ主催の模擬試験受験者は40.4万人、2013年度大学入学者は61.4万人。また、任意ではあるが、生徒の受験結果の報告が求められ、ベネッセを利用している大半の高等学校がベネッセにデータを提供している。これらの数は全国模試を実施している業者の中で最大、母集団が大きいから相対的にデータは正確さを増し、更に受験者が集まる。予算規模も大きくなるから、問題も事後の解説も質が高くなる。大規模量販店と同じ事。規模が大きくなればなる程強くなり更に規模が大きくなる。
 ベネッセの模擬試験では所属学校と氏名の他に生年月日の登録が必要で、これをもって過去のデータとの結合をする。(同じ学校で同姓同名かつ生年月日が同じ生徒は確率的に大変少ない。)このデータをインターネットを通じ学校に提供する。これは高校教員に大変便利なシステムで、模擬試験を受け続ければ、個人の得点・偏差値の推移が即座に把握できる。大学の合格可能性を示せる。受かる大学を検索できる。インターネットに接続したPCを横に置いて、教員は生徒と進路指導個人面談をする。これらのサービスを電話モデムを使った「パソコン通信」の時代から行っており、模擬試験業者の中で最も早くそのシステムも最も使いやすかった。
高校毎の担当者が定められ、年に何度も学校を訪れ、とりわけ進路指導担当者としっかり人間関係を作る。電話連絡一つで学校に飛んでくる、丁寧なサービスを提供してくれる。
ベネッセはこうして、全国で大学進学指導をする大半の高校生の学力を数十年集め蓄積している。私も40年程前に受験し、電算機を使った結果表を受け取った。そのころ電子データの提供は無かったが、ベネッセ自身のデータベースはこの時代から稼働していたはずだ。
 考えてみれば、これはベネッセが全国の高校の学力とその経年変化を大半把握していることを示す。この学校は入学生の学力は低いが3年間でよく生徒を伸ばす、この学校は実績はあるが高校時代に生徒の学力をあまり伸ばしていない、10年前には底辺校だったが最近卒業生の学力が急激に上がった、とか簡単に分析できるだけのデータを持っている。同時に、全国大学入学者の学力とその推移を詳細に把握している。当該の大学の先生以上に正確に。
 毎年大学受験シーズンを前にベネッセ主催高校進路指導担当者対象の進路説明会が、地域別に何度か開催され、高校進路指導担当者はどの学校もほぼ確実に参加する。そこで各大学学部入試種別毎の詳細なデーター冊子が手渡され説明が加えられる。勿論ネット上でも公開され、前述のように生徒の偏差値とドッキングして検索可能である。この(同一の)情報をもとに各高等学校では大学進学指導をする。
 全国どこでもイオンモールがある。ベネッセの大学進学競争に対する影響力は、小売業におけるイオンモールどころの騒ぎではない。殆ど一元支配。
 ベネッセが大学を潰すのは簡単だ。「××大学はお勧めできません」と説明会で発言するだけで受験生は激減する。「○○大学△学部はねらい目」といえば受験生が集まりレベルアップする。大学の先生が、より評価される大学教育目指して日々重ねている営みも、ベネッセのひとことで消し飛んでしまうのだ。
 高校入試への影響力は、現在大学入試程強力ではないが、同じ事は必ず起こるだろう。小中学校の事はあまり詳しくないが、ベネッセのホームページでは、「全国小学一年生の3.1人に1人が進研ゼミを受講」とある。これだけの受講者がいれば、潤沢な予算を使って優れた教材開発もできよう。そしてますます受講者を増やす。

 ベネッセは日本の学校教育を支配する。私の職場では、ベネッセを「影の文科省」と呼んでいた。