朝日新聞にタブレットコンピュータと教育についての3人の論考が出ていた。(14.8.23)
タブレットはとてつもない機械であることは間違いない。私が思いつくその機能を列挙してみる。
◆電子辞書
ここ数年で、電子辞書はかつての電子手帳と同じ運命をたどるだろう。既に、学校に紙の辞書を持参する生徒は殆どいない。(だろう。全国調査したわけではないから。)電子辞書は広く普及している。価格を維持する高機能型には、数十種類の辞書のほかおまけとして数多くの受験参考書が組み込まれている。一方辞書機能に特化した物はどんどん安価になる。しかし、スマホにかなわない。スマホ買えば、それに安価なアプリを追加するだけで辞書になる。2つ持つのは不合理だから、電子辞書を買わない生徒が増えている。学校は携帯の授業中使用を禁止している。持ち込みを禁止している学校もあるだろう。そこで、スマホに組み込まれた辞書は悩ましい問題になる。
タブレットの普及は、電子辞書の衰退に追い打ちをかけるだろう。紙辞書のように記述の全体を見回すことが可能になり、反電子辞書派も反論ができなくなる。更に、様々な電子辞書の検索機能は紙辞書では実現できないことをやってのける。例えば、同一の語幹、同一の語尾を検索する機能は単語学習を効率化するだろう。その上、テキストとのリンクが可能になり、テキストをタッチすれば辞書ウィンドウがひらいて、意味を調べた上で発音を確認できたりする。
◆電子書籍
既に、使用教科書の全てをタブレットに組み込み、教科書を持ち歩かない学校があると聞く。高等学校3年間で使用する教科書全てを電子データ化してタブレットに組み込むことは、タブレットの機能からすればたやすいことだ。その上に大学受験に必要な参考書や問題集の全ても余裕で組み込める。そして紙ではできない機能を数多く付加できる。図版は大型で美しくできるだろうし、動画付きの教科書だって可能だ。家庭科の教科書には、魚の捌き方が動画で出ていたりすると楽しい。英語のテキストは全て音声をリンクできるだろう。先述のように、テキストは全て辞書とリンク可能だ。更に、同一書籍内部や書籍相互のリンクを設定できるから、例えば数学の教科書は問題集の対応問題にリンクし、問題は模範解答集とリンクできる。問題集の[ヒント]をタッチすると、教科書の対応ページにジャンプするような機能の組み込みも簡単だ。教科書と問題集と模範解答を机の上にならべて勉強するかわりに、机の上にタブレットがあればよい。
高校生向けの推薦図書など殆ど電子化されているから、簡単に手にはいる。国語の教科書に出てきた作家について、他の作品を紹介する。英文に接する機会を増やすために、英文の絵本やファンタジーなどを提供することもたやすい。
◆高機能関数電卓
英国では機能を統一した関数電卓を数学を学ぶ生徒全員に購入させる。教科書も関数電卓で処理する頁があり、試験でも関数電卓を使用する問題がある。タブレットは高機能関数電卓として使用できる。現在のスマホでも無料アプリとして関数電卓がついてくる。iPhoneでは縦にすると普通の電卓だがこれを横にすると関数電卓になる。英国の高校生が購入する関数電卓(メーカーはカシオだった!)と同程度の機能を持ち三角関数や指数対数関数の計算が可能になる。タブレットも同様で高校までで出てくるあらゆる数値計算を処理できる。更にあらゆる関数の描画・グラフ化が可能。かつては、高級関数電卓だけがグラフ描画機能を持っていた。空間図形を描いて、自由に視点を移動させたりすることは、人手では決してできなかったことだ。更に、数式処理ソフトも安価で手にはいる。およそ高校生までに学ぶあらゆる数式処理がタブレットで可能だ。因数分解や展開は当然。解ける代数方程式は全て解く。分数、累乗根、虚数を組み合わせた代数的解を瞬時に示す。教員でも頭を抱える複雑な積分も一瞬。しかもそれが雑誌一冊の大きさで手軽に持ち運べる。タブレットを全員が持っていることを前提としたとき、数学教育は変わらざるを得ないだろう。理系の技術者として仕事をしていても、計算処理はタブレットに任すことができるのだから。
◆小型PC
ワープロ、表計算、画像処理などPCにできることはすべてできる。テキスト入力に専念するときはキーボードを付加すればよい。教育ソフトも同様で、個別学習機器としての機能を果たす。コンピューター室で行っていたことが、普通教室で、自宅で、通学途中の電車の中で可能になる。
◆ネットワーク端末
教室に無線LAN機能を用意すれば、これまでコンピュータ室でしかできなかったPCネットワークを利用した授業や、LL教室で行っていた音声教育などをタブレットは簡単に代行する。問題を解かせてその結果を教員が集計したり、誰かの解答を全員に提示したりできる。アンケート調査もできるしクラス討議の投票も、生徒委員の選挙もできる。ソフトさえあれば。
また、学校では結構たくさんの配布プリントがある。授業の参考プリントから、様々な案内プリントまで、書込用でない物はすべて電子的に配布できるだろう。それも必要な生徒だけ選択的に配布できたりもする。学校は膨大な紙を消費する。多いに節約できるはずだ。更に各種申込や生徒提出書類、この集約は担任にとって結構手間な仕事なのだけれど、かなりの部分電子化できるはずだ。ソフトさえあれば。
既に多くの大学の授業がそうであるように、板書がパワーポイントに変われば、パワーポイントのデータを取得すればノートをとらなくてすむ。黒板の手書き文字を電子化する電子黒板もあって、生徒はノート取りから解放され授業を聞くことに集中できる。?
◆インターネット端末
PC同様インターネットサービスを享受できる。調査して、レポート作成する等PC室でしかできなかった事が教室で、自宅で可能になる。
教育で注目されているのが動画配信。タブレットを全生徒が保有すれば授業を自宅で受けられる。話題の反転授業。授業は宿題として自宅で、学校では発表と討論なのだそうだ。授業も、別に担当の先生でなくてよい。有名大学の先生でもよい。現在教科書を採択すると、教科書のサービスとして、全てのテキストの電子データー、定期試験用問題サンプルの電子データ、更にパワーポイントを用いた授業用の板書データまでついてきたりする。そのうち法定時数分の授業動画が附属する時代が来るかも知れない。全国の生徒が同じ先生の動画で勉強する時代が来るか。既に有名予備校では動画配信授業が一般化している。世界中の多くの大学が講義の動画配信を行っている。全国にたくさんの姉妹校を抱える巨大私立など動画配信同一授業は簡単に実現できるだろう。全国から授業の上手い教員を選び出し、動画配信に専念する体制を作ればよい。また、通信制高校、通信制大学などもタブレットの普及により更に広がるだろう。何時でも何所でも授業が受けられる。
◆デジタルカメラ、ビデオカメラ、音楽演奏、動画再生、メトロノーム、ストップウォッチ
実験、自然観察、フィールドワークの報告などリアルな物が作れそうだ。遠足、研修旅行のリアルタイムレポートも作れる。
体育の時間には模範演技を動画で見せる。跳び箱飛んでる様子を各個人に配布する。音楽鑑賞もタブレットで。実技演奏も収録して各個人に配布。タブレットアプリのメトロノームは高性能で見やすい聞きやすい、電子チューナー(調律器)もタブレットで代用できる。
運動部でも、一流プレーヤーのフォームをスマホやタブレットで学び、自分のプレーをタブレットで撮影確認する事は既に始まっている。野球のスコアブックも画面タッチだけで簡単につけられる時代だ。陸上で複数の選手が周回しているラップを1人で集計したりもできるだろう。
要するに、アプリケーションを組み込むことで様々な機械に変身する機械なのだ。
◆センサーの活用
タブレットやスマホには3軸加速度センサーが組み込まれており、時系列でデータを取り出すアプリもある。上方に放り投げてみるだけで結構面白い。物理では様々な実験ができるはずで、すでに、授業研究としてインターネット上に発表されている。台車にタブレット取り付けて斜面を走らせ、結果を見る。超高層ビルのエレベーターにタブレットもって乗り込み加速度の推移を計測したり、旅客機離陸の際の加速度を測定したり、今まで殆ど不可能だったことができるようになった。機器を付加すれば、速度、温度、PHなど実験データを時系列でとりだし、グラフ化したり計算処理したり、高度なデジタル計測が手軽にできるようになる。
タブレットのセンサー機能を最大限生かしたアプリとして感心したのは、星座早見盤。タブレットを空にかざせばその方向にその日その時見える星座が示される。現在地の緯度経度がわかり、現在の日付時刻がわかり、タブレットが向いている方位と地表に対する角度がわかって初めてできることだ。
思いつくところを列挙してみただけでこれだけ書けるが、まだまだ未知の可能性がある。例えば現在急速に進歩しつつある音声認識技術。既に話しかけに応答するスマホがある。話しかけるだけで機器が操作できれば教育機器としての可能性は随分広がる。でもこれでいいのだろうか。